――かつて、私であったものへ。
星の瞬きが崩れ落ちる夜、私は喉の奥で軋む呻きを聴いた。否、それは呻きではない。蠢く思念の残滓が、私の中に巣喰う気配だった。肋骨の隙間を這い、脊髄を滴る冷たい何か。
視界が軋む。世界が歪む。言葉にならぬ呪詛が皮膚の裏側から芽吹き、血肉を縛り上げる。私の口から、私ではない声音が漏れた。
「継承の時は満ちた」
おぞましい。おぞましい。私は何も望んではいない。だが、それはすでに私の意志とは関係のないこと。躰の内側で育ち続けたそれが、ついに繭を破り、顕現の時を迎えたのだ。
指先が裂け、黒い繊維が滲み出る。関節が逆流し、骨が新たな形を孕む。
嗤うな。私の中で、私ではないものが嗤っている。
「おまえは、誰だ?」
訊ねたのは私か、それとも"彼"か。答えは返らない。ただ、理解だけがある。
私の躰は容れ物に過ぎなかった。私は最初から"これ"を迎えるためにあった。時間はすでに収束し、選択などという概念は霧散した。
次の瞬間、私は私ではなくなった。
――嗚呼、これが"始まり"なのだ。